『 ジュッリオのこと 』
『 カラブリアでの生活 』
『 季節の花-senso lldee stagioni 』
『 今日、明日、そして未来 』
『 クリスマスのお話 』

『ジュッリオのこと』

２００６年の１月半ばから４月の終わりまでレ ジョイエにいたジュッリオについて少し書いてみることにした。

　もうすぐクリスマスで仕込みモード真っ最中のある日。イタリアから１本の電話があった。ジェシカからだった。ジェシカについてはまた後に色々書くつもりでいるのだが、私たちがボローニャのレストランでお世話になったシェフである。
　久しぶり！元気？なんて会話からコックの男の子でとてもブラボーな子がいるのだけど、レ ジョイエにどうかしら・・・との話に、聞いてみると、彼は日本が大好きでとにかく日本で生活したいとのこと。
　すぐに楽しそうだな！と思ったものの会ったこともない男の子でしかも家で一緒に生活するということになれば家族にも承諾してもらわないといけない。当時、７ヶ月だった娘と仕事の両立だけでいっぱいいっぱいだった私にイタリア人を受け入れる余裕があるだろうか・・・。心配は山盛りだったが、ジェシカの紹介だし、これも何かの縁。何か起きても頑張ろう！と心に決めた。こうして年が明けた１月半ばから３ヶ月間、ジュッリオは我が家のメンバーの一員となった。

　ジュッリオ・グロット　イタリア、ヴィチェンツァ出身（ヴェネチアの近く）。
コックの仕事をしながらイタリア各地を転々としてボローニャではジェシカの下で働いた。

　ジュッリオが到着した日、私は娘と２人で近くの駅まで迎えに行った。バスから降りてきたジュッリオを見たとたん、すぐに大好きになった。何というのだろう、人柄は顔に表れるものだと思う。しかもこのジュッリオは仕事もよくできる人で、面倒をみないと！と思っていたのに逆にどれだけ私たちはジュッリオに助けられたか。
　両親も娘もジュッリオが大好きになり、店でも超ムードメーカー。とにかく明るいし、イタリアからとっても心地よい風が吹き込んできたという感じだった。

そもそもジュッリオはなんで日本がこんなにも好きなんだろう。一緒に生活していると、ジュッリオの日本好きが面白い。食べ物はすべて大好物。日本語も日本人も大好き。携帯電話には日本人のように人形のストラップをつけ、５本指靴下を履き、自分の前世は日本人だったんだと改めて思う毎日。
　ジュッリオがイタリアで働いていた店はミシュランガイドブックのいわゆる☆付きのレストランで、こういうレストランにはたいてい日本人が働いている。働く店々で知り合う日本人は、ジュッリオ曰く、皆、イタリア料理に情熱を持っていて、まじめで、優しく、面白い。一体、日本ってどんな国なのだろう。自分で本を買って日本語の勉強を始め、日本について書いてある本には目を通した。もう、日本に行って見たくて仕方なくなり、仲の良かったジェシカに相談したそうだ。
　日本の漫画が好きでとか、三島由紀夫に興味があってというイタリア人は数知れずいたが、日本人が好きで（出会った日本人コックは全部男ばかり！？）日本に来たイタリア人なんて聞いた事もなかったから驚いた。
　日本に来て、日本への思いが募るばかりのジュッリオはビザがきれる１ヶ月前になると、どうやって日本に戻ってこようかばかり考えていた。今は秋に日本に戻ってくるため、イタリアで休みも取らず毎日働いている。時々、携帯にかかってくるジュッリオの日本語は少しずつ上手になってきているから勉強もちゃんとしているのだろう。

　私たちもイタリアにいる時、働く先の店を探す時はガイドブックを片手に、住み込みで働くため部屋は用意できるか、給料はいくらもらえるかを聞いて電話していた。そして条件が合うと行ったこともない所に荷物をかかえて飛び込んでいった。
　今、こうして思うと、レストラン側も、素性も知らない日本人をよく受け入れて、メンバーの一員として迎え入れてくれたなあと思う。私たちはイタリアで本当にいい人たちと巡り合い、いい経験ができた。だからジュッリオにも絶対、日本が好きになって帰ってもらいたかった（そんな心配は無用だったが・・・）。

　何かしてあげよう！と思っていた私たちに、ジュッリオはたくさんのことをしてくれた。
日本に来たいジュッリオ。イタリアに行きたい私たち。次に再会する時はどちらの国か。また会えるのが楽しみだ。